Beken社 BK4819はUV-K5に使われているトランシーバーICとして有名ですが,同社は子供向けWalkie-Talkie用にBK4802も発売しています. BK4802はQFNパッケージに加えてSOP16パッケージのものもあり,比較的容易にはんだ付け作業ができそうです.このチップはaitendoで入手可能です.
このBK4802pのSOP16パッケージを使用したFMトランシーバーの製作については,JK1MLYさんがFX.25 QRP機と28MHz帯から430MHz帯の4バンドQRP機の製作を報告されています.
http://ina3.jk1mly.org/archives/tag/bk4802
PICマイコンによる制御で,ハードウエア及びソフトウエア両方の情報がGithubに公開されています.
また,BK4802使用のトランシーバに関してはBG7QKUのGithubも大変参考になります.
https://github.com/BG7QKU
一方,aitendoではBK4802が載ったモジュールも2種類販売されています.また,これらのモジュールはAliExpressやEbayなどでも入手可能です.
トランシーバーモジュール [M4802NA]は,QFNパッケージのBK4802を使用し,462.125MHzと462.175MHzで送受信可能です.しかし,残念ながらこの周波数は日本では使用できません.BK4802は16個の周波数設定を予めチップ内に持っており,それらを切り替えて使う事も可能で,また外付けのEEPROMに周波数設定を書き込んでおいて使う事も可能のようです.しかし,このモジュール [M4802NA]では,別のマイコンにより送受信周波数の設定や送受切り替えなどを行っています.このため,このモジュールを別の周波数で使用するには搭載マイコンを解析して再プログラミングするか,マイコンを乗せ変える必要がありそうです.マイコンを切り離して,内部設定された周波数を使用することも可能かと思われますが,QFN4x4 32pinチップなので小さくて配線作業が大変そうです.
もう一つのトランシーバーモジュール [M4802NB-LCD]は,SOP16パッケージのBK4802を使用しています.このモジュールには,液晶表示器,マイク,スイッチ類も載っており.スピーカーを繋げばすぐに使用できそうです.SOP16パッケージのBK4802には内臓周波数を切り変えるためのピンがついていないので,マイコンが別に付いていて制御しています.このモジュールでは7周波数がプリセットされていますが,アマチュアバンドの周波数は設定されておらず,このままでは使用できません.幸いなことに,このモジュールではマイコンとは別にEEPROM(24C02)を持っていて,ここに設定周波数を書き込んであるようです.そのため,EEPROMを書き換えることで希望する周波数で使えるようになります.この詳細は,JJ5RBD/Code10-4第1@Code10_4さんがXで呟いていらっしゃいます.たとえば,
https://x.com/Code10_4/status/1893667927603155371
周波数設定のためのレジスタの値についても,JJ5RBD/Code10-4第1@Code10_4さんが調べておられます.また,JK1MLYさんがGithubに公開されているエクセルシート"calc-reg.xlsx"も使えそうです.今回の目的にはこのエクセルシートのRXsettingの値が適合するようです.
https://github.com/jk1mly/fm-trcv
と言う訳で,JJ5RBD/Code10-4第1@Code10_4さんの情報をもとに,このモジュールを使用したQRP FMトランシーバーを製作してみました(実際には,後述するようにJJ5RBDさんと同様にAliExpressで購入したモジュールを使用しました.).製作内容は以下になります.
1.EEPROMに周波数情報を書き込む.
2.高調波スプリアスの抑制のためにBPFあるいはLPFをつける.
3.スピーカーをつけて,ケースに入れる.
4.おまけ(玩具トランシーバー).
具体的には
1.EEPROMに周波数情報を書き込む.
このモジュールの初期の基板(aitendoの写真やJJ5RBDさんの写真など)では,マイコンチップとEEPROMチップはLCDの下にあって,LCDを持ち上げないとアクセスできません.
一方,最近私がAliExpressから購入したモジュールでは図1のように,基板が少し変更されていました.アンテナ端子がエッジマウント型のSMA端子を付け易くなっており,EEPROMチップ(24C02 sop8型)は基板の裏に移動していてアクセスが容易になっています.
EEPROMに周波数情報を書き込むには,JJ5RBDさんのXの投稿がとっても参考になります.このEEPROMは搭載マイコンが読み書きしていると思われ,最初の2ワードは電源OFF時のチャネルと音量の記憶用,6ワード目は実装チャネル数の指定,その次から5ワード毎に各chの周波数情報とのことです.JJ5RBDさんの投稿には代表的な周波数のバイナリー情報も書かれています.また、この値の計算にはJK1MLYさんのエクセルシートも使用できました(RXsettingの値を使用).
希望の周波数で使用するには,EEPROMに周波数情報を書き込む必要があります.モジュールのEEPROMは1.27mmピッチのSOP8のパッケージの24C02ですので,”CH341A XTW100 24 25 シリーズ EEPROM フラッシュ BIOS CH341 USB プログラマモジュール + SOIC8 SOP8 テストクリップ EEPROM 93CXX / 25CXX / 24CXX”を使用しました.これは,AmazonやAliExpressなどで比較的安価で購入できます.このテストクリップでEEPROMを挟んで,データの読み書きを行いました.ドライバーのインストールが少し厄介でしたが,やり方はネット上を検索して得ました.24C02が基板に付いたままの状態ではデータの読み書きが上手くいかず,一旦24C02を基板から取り外して読み書きし,その後ハンダ付けする必要がありました.
6ワード目の実装チャネル数の指定については10以上も可能で,CH番号が1桁の場合は”CHx"と表示され,2桁の場合は”Cxx"と表示されました.24C02のメモリ容量から考えると50チャネルまで収納できそうです.
ALL.bin:47CH,4バンド+αのテスト用(ALL_freq.txtに周波数を記載).
29MHZ.bin:31CH,1CH:29.01MHzから10kHzステップで30CH:29.30MHz,そして31CH:29.60MHz.
51MHZ.bin:50CH,1CH:51.00MHzから20kHzステップで50CH:51.98MHzまで.
145MHZ.bin:40CH,1CH:144.82MHzから20kHzステップで40CH:145.60MHzまで.145MHzは10CH.
433MHZ.bin:50CH,1CH:432.62MHzから20kHzステップで50CH:433.60MHzまで.433MHzは20CH.
2.JJ5RBDさんの実験にもあるように,高調波スプリアスがものすごいので,LPFあるいはBPFが必要です.JK1MNYさんは,4バンドQRP機においてダイオードスイッチでバンド切り替えを行っていますが,今回はバンド毎にフィルターを付け替える方式にしました.またJK1MLYさんは29MHz帯と51MHz帯はFCZコイルを使用したBPFを使用し,145MHz帯と433MHz帯はLPFを使用しています.今回、この報告を参考にして,145MHz帯と433MHz帯はLPFを採用し,さらにより単純なπ型2段としました。また,51MHz帯はFCZコイルを使用したBPFとπ型2段LPFを検討しました.受信のことも考えるとBPFの方が良さそうなのですが,BPFのバンド内通過減衰量が多めでしたので,最終的にはπ型2段LPFにしました.29MHz帯は51MHz帯の経験からπ型2段LPFにしました.回路図は図2です.回路図がπ型っぽくないのすが,基板をBPFと共用したので,中央部が上下反転しています.
433MHz帯のLPFは,サトー電気で購入したチップインダクタ(18nH)2個とチップコンデンサー(7pF)4個を使いました.
この時の高調波スプリアス特性は以下の図3-1のようになりました.高調波以外にも図3-2に示すように近くにかなりのスプリアス放射が見られますが,新スプリアス規則では出力1W以下の場合はスプリアス領域で50μW(-13dBm)以下が求められていますので一応大丈夫です.ただ出力を1W以上に増幅するとLPFでは取り除けない近くのスプリアス放射のために,いくら良いLPFをつけても新スプリアス規則を満たすことは不可能です.
145MHz帯のLPFは,サトー電気で購入したチップインダクタ(56nH)2個とチップコンデンサー(22pF)4個を使いました.
この時の高調波スプリアス特性は以下の図4-1のようになりました.また,高調波以外のスプリアス放射は図4-2です.こちらも新スプリアス規則では出力1W以下の場合はスプリアス領域で50μW(-13dBm)以下ですので大丈夫です.こちらも430MHz帯と同様に.1W以上に増幅すると新スプリアス規則を満たしません.
51MHz帯のBPFは,サトー電気で購入した7mm角50MHz用FCZコイル2個を用いて作りました.
この時の高調波スプリアス特性は以下の図5-1です.また,高調波以外のスプリアス放射は図5-2です.新スプリアス規則は430MHz帯と同じですので,大丈夫です.高調波スプリアス以外は綺麗なので,PAをつけても良いLPFをつければ1W以上でも大丈夫かも知れません.ただ,今回のBPFの場合,挿入損失が約10dBあり,出力が1mW程度になってしまいました.
そこで,LPFも検討しました.LPFは,サトー電気で購入したチップインダクタ(0.18μH)2個とチップコンデンサー(68pF)4個を使いました.
この時の高調波スプリアス特性は以下の図5-3です.出力は10mWになっています。また,高調波以外のスプリアス放射は図5-4です.新スプリアス規則は大丈夫ですが、近くのスプリアス特性がいまいちです(1Wを超えるとダメ)。
29MHz帯のLPFは,サトー電気で購入したチップインダクタ(0.22μH)2個とチップコンデンサー(220pF)4個を使いました..
この時の高調波スプリアス特性は以下の図6-1のようになりました.また,高調波以外のスプリアス放射は図6-2です.新スプリアス規則では出力5W以下の場合はスプリアス領域で50μW(-13dBm)以下ですので,大丈夫です.また、PAをつけても新スプリアス規則は大丈夫そうです(あまり大きいとLPFが焼けそうですが).
ところで,144MHz帯と430MHz帯のLPFはJH4VAJさんが頒布されているUV-K5用のものがそのまま使えると思います。
3。今回,スピーカーを付けてケースに収納することにしました.ケースは3Dプリンタで製作しました.
スピーカーは秋月電子通商の”マイクロスピーカー 青/白リード付 8Ω”を使用しました.
402535型のポリマーリチウムイオン電池(Amazonで購入)を使用して,リチウム電池駆動としました.
リチウム電池充電モジュールはUSB-C端子の物を使用しました(Amazonで購入.20個で749円2025年5月現在).
電源ON/OFF用スライドスイッチはサトー電気の”小型3P”を使用しました.おそらく,秋月電子通商の”1回路2接点 パネル用”も同じサイズと思われます.
基板のPTTスイッチは位置が悪く,押しにくいので,追加でスイッチを付けました。これには秋月電子通商の”スナップインタイプタクトスイッチ”を使用しました.
BFP兼LPF用の基板はJLCPCBに注文して作製しました(1.6mm厚基板,ガーバーファイルは
こちら).
3-1) EEPROMソケット外付けモデルの製作
①EEPROM用DIP8ソケットの取り付け(図7)
元々付いているEEPROMは,SOP8のパッケージの24C02です.24C02にはDIP8パッケージのものもあり,aitendoでも購入できます.そこでDIP8ソケットを外部に付けて,差し替えできるようにしました.各バンドことに差し替えて使うと便利だと思います.
ケースにDIP8ソケットが差し込める穴を開けておいて,DIP8ソケットを差し込んで固定しています,そのDIP8ソケットのピンに配線を行いました.
24C02の1-4ピンはGNDに接続されていますのでまとめて配線します.5から8ピンは元の基板からそれぞれ配線します.
②ケース側面へのPTTスイッチの取り付け(図8)
元々付いているPTTスイッチは基板の左下で実際の通信時には不便です,そこでケース左側面にPTTスイッチをつけました.
③ケース底部への電源まわりの取り付け(図9)
図に示すように電源ON/OFF用スライドスイッチは穴に差し込んだ後,固定用パーツを差し込んで固定しました.リチウム電池充電モジュールのUSB-C端子部分はケースの穴を少し広げないといけないかもしれません.この図の左下の部分はM3x10mmのネジを差し込んでGNDに接続しています.これは,U/VHFで1/4ラムダのロッドアンテナを使用する時のラジアル用です.
④中間仕切り版の取り付け
電源部とトランシーバー基板を分けるために中間仕切り版を取り付けます.
この時,充電モジュールからの配線とDIP8ソケットからの配線はそれぞれ別の切り込みを通してトランシーバー基板側に出しておきます.
DIP8ソケットからの配線は元のSOP8パッケージの24C02の部分にハンダ付けします.位置を間違えないようにテスターで確認しながら行うと良いでしょう.PTTスイッチの配線は図10のように行いました.また,電源の配線も行います.この図では見えませんが基板表側にスピーカー線を接続します.
⑥内蔵用LPF(図は430MHz用)の製作(図11)
今回は,430MHz用LPFを内蔵しました.JLCPCBに注文した基板は一応,表面実装部品とスルーホール部品の両方に対応しています.図11の基板はプロトタイプで上記のガーバーファイルはSMAコネクタの中心部のところにスルーホールが付いていて,裏からでもSMAコネクタの中心部に接続できるようになっています.
ちなみにこのLPFはπ型2段なので,CCの部分はジャンパー接続です.
スピーカーを設置する際.下にテープを貼って,DIP8ソケットから絶縁する方が良いと思います.
LPFのアンテナ側にはエッジマウント型のSAMコネクタを付けておきます.ケースに挿入した後,トランシーバーモジュールとジャンパー線で接続します.この図では見えていませんが,SMAコネクタの中心部についてはLPF基板の裏側からトランシーバーモジュールのANT端子につなげています.ガーバーファイルのLPF基板では裏にもSMAコネクタの中心部からの配線がスルーホールで出ていますので,少しやりやすいかも知れません.GND側もジャンパー接続を忘れずに.
図ではDIP8パッケージの24C02も取り付けています.
低周波バンドを使用する際には,その先にSMAコネクタでフィルターを追加接続します.
ケース類の3Dプリンタ用のファイルは,
こちらです.
本体ケースと蓋は102%で印刷して下さい.
受信感度は次のようになりました.
①29MHz帯:433MHzのLPF+29MHzのLPFで -90dbm(19dBuV)信号入力でスケルチ作動
②51MHz帯:433MHzのLPF+51MHzのLPFで -85dbm(24dBuV)信号入力でスケルチ作動
③145MHz帯:433MHzのLPF+145MHzのLPFで -96dbm(13dBuV)信号入力でスケルチ作動
④433MHz帯:433MHzのLPFで -98dbm(11dBuV)信号入力でスケルチ作動
受信感度はあまり高くありません.JJ5RBDさんのつぶやきの通り,スケルチレベルは変更できませんでした.
3-2) 単一EEPROMモデルの製作
DIP8ソケットの取り付け以外は3-1)と同じです.
元々ついていたSOP8パッケージの24C02を取り外して所望のデータを再書込みした後で,再びはんだ付けして下さい.
モノバンドで作られる方は,運用バンドのフィルターを内部にでセットします.
もしも,多バンドで作られる方は最も高周波帯用のLPFをモジュール基板に直付けにし,低周波バンドを使用する際に,その先にSMAコネクタでフィルターを追加接続するのが良いと思います.
本体ケースと蓋は102%で印刷して下さい.
もともとBK4802は子供向けWalkie-Talkie用です。 そこで、ライセンスフリーの玩具トランシーバーにすることを考えました.
玩具トランシーバーは「電波が著しく微弱な無線局」で,技適不要で,自由に使用できますが,そのための条件があります.
「電波法施行規則第六条第一項第二号」「電波が著しく微弱な無線局についての総務省の告示(第472号(郵政省告示第708号)」です.総務省に確認したところ,この告示のラジオマイク用の条件下でトランシーバーとして使用して良いそうです.アナログAM(A3E)およびアナログFM(F3E)について、周波数27.12MHz±162.72kHzおよび40.68MHz±20.34kHzでの使用が可能です.但し,無線設備から500mの距離において、その電界強度が200μV/m以下である必要があります.この電界強度はかなり強く,10mW出力のこのモジュールを使用した場合、ロッドアンテナ使用で電界強度の条件は十分クリアできそうです。詳細は電波研究所季報Vol.6 No.22 35-38 (1960)の論文をご参照ください.https://www.nict.go.jp/publication/kiho/06/022/Kiho_Vol06_No022_pp035-038.pdfと言う訳で、27.12MHzでも40.68MHzでも可能そうですので,ALL.binファイルの中にもその周波数を入れています.専用のEEPROMファイルはFREE.binで,40.68MHzと27.12MHzの2CHを設定しています.40.68MHzのLPFには51MHz帯用のLPFも使えます(図14)が,51MHz帯用LPFのコンデンサーだけを120pFにすると高調波がさらに抑えらると思います.
27.12MHzのLPFは、29MHz帯用のLPFがそのまま使えます(図15).
5.その他(EEPROMのスイッチでの切り替えの妄想,未検証).
24C02には3本のアドレス指定端子(1ピンから3ピン)があります.この基板では全ての端子をGND(Vss)に接続してアドレスの下3桁を000で使用しています.たとえば、この3端子の1本をVccに接続するとアドレスが変わってアクセスしなくなると思われます.そこで、複数の24C02を親亀の上に小亀といった形で積層し、それぞれのICのアドレス指定ピンの一つ(例えば1ピン)以外を接続します.元の24C02を含めて1ピンをそれぞれ10kΩの抵抗でVccにpull up接続しておきます。デップスイッチで、使用する24C02チップの1ピンだけをGNDに落とすと、その24C02だけのアドレスが000になって,使用することになります.このようにして、複数バンドを切り替えて使うことも可能かと思います.最も,そこまでするのであれば、JK1MLYさんの4バンドQRP機を作るか、JK1MLYさんのプログラムを参考にして新たにトランシーバーを設計する方が良いような気もしますが....
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